寺脇研氏の著書『昭和アイドル映画の時代』(光文社知恵の森文庫)で紹介された映画の中から36作品をラインナップした『昭和アイドル映画の時代』が、ラピュタ阿佐ヶ谷で2ヵ月に渡って上映中です。
グループサウンズ、酒井和歌子、新御三家、聖子ちゃんといった当時のアイドルの作品は貴重かつ興味を引くものばかりですが、個人的にイチオシなのが桜田淳子主演による『愛の嵐の中で』。昭和48年に歌手デビューすると同時にトップアイドルに君臨した桜田が20歳を迎えた昭和53年に公開された、ミステリータッチのラブストーリーです。
この作品は、一度もソフト化されていません。映画館での上映も数える程度。20年の間で5回程度と思われます。その都度、観賞した筆者の記憶を辿ると、最後の上映はテアトル新宿で、10年近くも前。今回の上映はとても貴重な機会といえるでしょう。
桜田の役どころは、姉の自殺の知らせを聞いて、パリから帰国したバレエ修業中のダンサー。警察が決めつける自殺説に納得がいかない桜田が真相究明のために、刑事のように推理を働かせて容疑者たちに接触するという内容です。
容疑者役の中には、文学・映画・ジャズなどの評論で人気が高かった植草甚一が大学教授として出演。神保町の古本屋における桜田とのシーンは植草のイメージにマッチしていて、味わい深いものがあります。翌年、植草はこの世を去ってしまうので、最後の映像作という意味でも、大変貴重です。
田中邦衛と岸田森も容疑者役で出演しています。田中は精神病院から抜け出した患者。岸田は桜田の姉に想いを寄せるバイセクシャル。スクリーンに登場しただけで爆笑を誘う、両者共に個性的過ぎるというかキワモノ演技で楽しませてくれます。
若かりし頃の泉ピン子は、桜田に色目を使う撮影スタッフ役。映画監督の大林宣彦はオーディションの審査委員。
脇を固める顔ぶれはバラエティー豊か。監督を務めた小谷承靖の遊び心ある人選に間違いはありませんでした。
主役の桜田も当然のことながら、素晴らしい演技力を披露しています。コミカルとシリアスを自在に使い分け、観る者を飽きさせません。後にアイドルから演技派女優へと成長するのも頷けます。少しばかり昭和のメロドラマチックな演技が気にかかりはしますけど。TBS『8時だヨ!全員集合』で、志村けんとの二人コントにおける、桜田が演じた新婚妻みたいなオーバーな演技ね(笑)。まあ、それすらも味になっているというか、時代が昭和だったので容認できます。
ただ、ひとつ気がかりなのがラストシーン。テレビ局の屋上で、桜田が人気テレビキャスター役の中村敦夫を追及すると、恋人だった姉を崖からつき落としたと中村が自白。と同時に、嘔吐しながら屋上から身を投げ出したのです。中村に淡い恋心を抱く桜田は、慌てて中村の手首を掴むものの、女性の力では引き上げることはできず、中村は落下。地面に叩きつけられた中村を見届けた桜田は、次の瞬間、中村の手首を握っていた自分の手を舐めたのです。嘔吐物がついている手を。愛情の表れなのでしょうが、桜田にやらせるとは!? 人気アイドルに、ゲロを舐めさせるなんて……。
大衆向けの娯楽作品を数多く手掛けてきた小谷監督の演技指導とは思えません。アイドルからの脱皮を図る桜田のアドリブだとしたらビックリ。どちらにせよ、単なるアイドル映画で終わらせないという意思表示なのは確かではありますが、真実を突き留めないと気が済みません。
もうすぐ85歳になる小谷監督に訊くか。桜田が信奉する宗教団体に入信して、接触を図るとするか。